電気放電加工機とは

電気放電加工機(Electrical Discharge Machining、EDM)は、金属やその他の電導性材料を加工するために使用される一種の非接触型加工機械です。この加工方法は、材料と電極の間に発生する連続的な電気放電(スパーク)を利用して材料を削除し、望ましい形状を作り出します。

目次

基本的な原理

電気放電加工(EDM)の基本的な原理は、電極と加工対象物の間で発生する電気放電(スパーク)を利用して材料を削除することです。以下にその基本的なプロセスを説明します:

  1. 電極と作業物:
    • 加工する対象(作業物)と別の材料から作られた電極を用意します。作業物は電導性のある材料でなければなりません。
  2. 誘電液:
    • 作業物と電極の間には誘電液(通常は水や特殊なオイル)が入れられます。この液体は電気を通さず、放電のプロセス中に発生する熱を吸収し、削除された粒子を流し去る役割を果たします。
  3. 電極と作業物の間の隙間:
    • 電極と作業物の間には小さな隙間(スパークギャップ)があり、これらは物理的に接触していません。
  4. 電圧の印加:
    • 電極に電圧が印加されると、電極と作業物の間の隙間に高電圧がかかります。
  5. 電気放電(スパーク)の生成:
    • 一定の電圧が達成されると、隙間を超えて電気放電(スパーク)が発生します。このスパークは非常に高温で、作業物の表面の極小の部分を溶解または蒸発させます。
  6. 材料の除去:
    • 連続的な放電により、作業物から微小な粒子が削除され、徐々に所望の形状が形成されます。
  7. 制御と精度:
    • EDM機械は通常、非常に高い精度で電極と作業物の間の距離を制御し、複雑な形状や細かい特徴を正確に加工できます。

この基本的な原理を利用して、EDMは硬度が高い材料や複雑な形状の加工、微細な穴の開ける作業など、従来の切削工具では難しい作業を可能にします。

主なタイプ

電気放電加工(EDM)には、主に次の3つのタイプがあります。

  1. ワイヤーカット放電加工(Wire EDM):
    • このタイプでは、連続的に動く細いワイヤーを電極として使用します。このワイヤーは、加工する材料を切断するために使用され、非常に精密なカットや複雑な形状を作り出すことが可能です。
    • 金型製作、精密部品加工、小さな穴の開ける作業など、高度な精度が要求される場面でよく用いられます。
  2. シンク放電加工(Sink EDM)またはラム放電加工(Ram EDM):
    • このタイプでは、特定の形状を持った電極(通常は銅や黄銅製)を使用し、その形状に相当する穴や凹部を材料に作り出します。
    • 大きな穴の開ける作業や、特殊な形状の成形、金型製作などに用いられます。
  3. ホールドリリング放電加工(Hole Drilling EDM):
    • このタイプは、特に小さな穴や非常に硬い材料に穴を開けるのに適しています。
    • 通常は細い管状の電極を使用し、冷却液または誘電液を穴に通しながら穴を開けます。
    • 航空宇宙産業や医療機器製造など、高度な精度が求められる分野で使用されます。

各タイプは、その用途や要求される精度に応じて選ばれ、工業製造の多様な分野で重要な役割を果たしています。

利点

電気放電加工(EDM)は、従来の機械加工方法と比較していくつかの顕著な利点を提供します。

  1. 硬質材料の加工:
    • EDMは、非常に硬い材料や熱処理された金属でも簡単に加工できます。これは、物理的な切削工具を使用する方法では困難または不可能な場合があります。
  2. 複雑な形状の実現:
    • EDMは、非常に複雑な形状や細かいディテールを持つ部品の加工が可能です。これにより、特殊な金型や精密部品などの製造に適しています。
  3. 加工面の品質:
    • EDMは非常に滑らかな表面仕上げを提供します。これは、特に金型製造など、表面品質が重要な用途において重要です。
  4. 無接触加工:
    • EDMは加工中に材料と電極が接触しないため、機械的な応力や振動が発生しません。そのため、薄い壁や脆弱な部分の加工に適しています。
  5. 工具の摩耗が少ない:
    • 電極と作業物は物理的に接触しないため、工具の摩耗が少なく、長期間にわたって精度を保つことができます。
  6. 微細な加工:
    • EDMは非常に細い穴の開ける作業や細部の加工に適しており、微細な精度が要求される分野で有利です。

これらの利点により、EDMは特に金型製作、航空宇宙産業、医療機器製造、自動車産業など、高度な精度と複雑な形状が要求される多くの工業分野で重要な役割を果たしています。

注意点

電気放電加工(EDM)を行う際には、以下のような注意点があります。

  1. 材料の制限:
    • EDMは電導性のある材料にのみ使用できます。非電導性の材料はこの方法で加工することはできません。
  2. 加工速度:
    • EDMは従来の切削加工に比べて加工速度が遅いことが多いです。高度な精度や複雑な形状を実現するために時間がかかります。
  3. エネルギー消費:
    • 高電圧を使用するため、他の加工方法に比べてエネルギー消費が高いことがあります。
  4. 誘電液の管理:
    • 誘電液は適切に管理し、定期的に交換または清浄化する必要があります。不適切な管理は加工品質に影響を及ぼす可能性があります。
  5. 安全性:
    • 高電圧を使用するため、運用時の安全対策が必要です。また、誘電液が引火する危険性もあるため、火災予防策も重要です。
  6. 精度の維持:
    • 電極の摩耗や変形が加工精度に影響を及ぼすことがあるため、電極の状態を定期的にチェックし、必要に応じて交換する必要があります。
  7. 廃棄物の処理:
    • 加工中に発生する金属粉末や使用済みの誘電液は適切に処理する必要があります。これらは環境に影響を与える可能性があります。

これらの注意点を理解し、適切な管理と運用を行うことで、EDMは非常に有効かつ精密な加工方法となります。

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